
常盤松のお隣り、広尾にあるその3000坪の広大な邸は、1915年(大正4年)に、中村是公の自邸として建てられた。満91歳の建物だ。

中村是公は、満鉄総裁、東京市長と歴任し、東大で同期だった夏目漱石とも親交の深かった人で、漱石はこの邸を何度も訪れている。
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関東大震災も空襲も、この邸を避けて通り過ぎた。
こうした幸運にも恵まれて、戦後は結婚式場兼レストランになり、
羽澤ガーデンと呼ばれるようになる。
毎日、立派な構えの正門をタクシーがくぐり、
ゆるやかにカーブする坂道の先にある広々としたエントランスに横づけして、
着飾った客たちを降ろした。
大正ロマンがあふれる和洋折衷の堂々とした邸宅は、
客たちに平均以上の出費を覚悟させたが、
美しい日本庭園や、春は満開の桜が、彼らをなごませた。
夏のビアガーデンで、味の割にはお高い料理に憮然とした人もいただろうし、
友人や先輩の結婚式で、赤絨毯の敷かれた廊下を緊張気味に
歩いた思い出のある人もいるだろう。
この僕が、そうだった。
その羽澤ガーデンがとつぜん閉鎖されたのは、昨年の12月のことだ。

あれから、もう1年近く経つ。門は、かたく閉ざされたままだ。
閉鎖の理由は老朽化ということらしい。
老朽化。とても便利な言葉だ。
かつて老朽化を理由にたくさんの美しい建物や古い町並みがスクラップにされ、
決して美しいとはいえない高層マンションやオフイスビルにとって変わった様子を、
東京に住む僕達は、いやというほど見てきた。
キーワードは、収益性だった。
もちろん、収益性はとても大切な要素だ。
佃島で。代官山で。丸の内で。麻布で。六本木で。表参道で。
収益性は、その地の歴史よりも価値あるものとされ、
スクラップ&ビルドが、美徳とされた。

しかし、スクラップ&ビルドという手法だけが、収益性を保障するわけではない。
パリ、ヴェネチア、ローマ、こうした歴史的な街は、
老朽化した建物を修復し大切に使い続けることで
街そのものの価値を高め、それが観光資源となり、
けっきょく街総体の収益性をも高めている。
いや、それ以上に良いものをだいじに長く使う価値観自体が
豊かさなのだと思う。
昔は日本人も持っていたこうした価値観に目をつぶらせてしまう何かに、
今の日本人がとりつかれているとすれば、それは悲しいし、情けない。
地震が多い東京で古い建物は残せない、というのはウソだ。
この街には、関東大震災を生き抜いた建物が、山ほどある。
さらにいえば、今の技術で耐震性や耐火性を高めた
リノベーションができないわけがない。
ディベロッパーに金が行かないので、やろうとしないだけだ。

羽澤ガーデンを運営していたPlun・ Do・ Seeは、
そのwebサイトhttp://www.pds-w.com/thg/を、閉鎖せずに残していた。
しかし、Reservationの11月のカレンダーに、もちろん予約は入っていない。

邸の跡地には、いずれマンションが建つという。
Plun・ Do・ Seeの仕事や目黒のクラスカなど、
古い建物をセンスよくリノベーションすることで収益性を増した例が
増えているにもかかわらず。
Plun・ Do・ Seeのwebサイトで客を待つメニュー表や美しい写真が、
その愚行に静かに抗議しているように思えるのは、僕だけだろうか。
もちろん、広尾に3000坪の土地を持つことが、TAX負担として
どれだけ所有者を苦しめていて、であればこそ土地の有効活用こそが
唯一のサポートとなるのは充分に理解しているつもりだ。
しかし、そのサポートシステムが、建設族議員、マンションディベロッパー、銀行というマネースクランブル以外にほとんどない、とことん貧しい状況が、
東京からまた、わずかに残っていた歴史を消し去ろうとしている。

願わくは、周囲のマンションがかつてそうであったように、
ここに建つ建物が、品性のある低層建築であることを。

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こんばんは八王子のkeikoです。
私も東京都民ですが、羽澤ガーデンは知りませんでした。
いい所がだんだんなくなって残念ですね。
私も東京都民ですが、羽澤ガーデンは知りませんでした。
いい所がだんだんなくなって残念ですね。
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羽澤ガーデンは、とてもすばらしい場所でした。閉鎖のこと知らなくて
レストランに行きそびれていたことが悔やまれます。
それから、ここもそうですが、近くの日赤通りの赤レンガと桜並木も取り壊されてしまいました。もちろん、お決まりのマンション建設のためです。これに関しても、いずれ書きます。
レストランに行きそびれていたことが悔やまれます。
それから、ここもそうですが、近くの日赤通りの赤レンガと桜並木も取り壊されてしまいました。もちろん、お決まりのマンション建設のためです。これに関しても、いずれ書きます。
こうしてまた東京の歴史の語り部が無くなってゆくのですねぇ・・・
寂しいです・・・とても寂しい気持ちになりました
新しくするという事は全てに於いて正しいとは思えない
これはたぶん僕が「街作り」や「開発」に関してかなり
ナイーヴだから思うことなのでしょうが
文化・・・って、「過ごしてきた時の証拠」でもあると思っています
ですので、こうした建物は・・・なんとか残せないのかなぁ・・・って
思ってしまいます
寂しいです・・・とても寂しい気持ちになりました
新しくするという事は全てに於いて正しいとは思えない
これはたぶん僕が「街作り」や「開発」に関してかなり
ナイーヴだから思うことなのでしょうが
文化・・・って、「過ごしてきた時の証拠」でもあると思っています
ですので、こうした建物は・・・なんとか残せないのかなぁ・・・って
思ってしまいます
エンゾさん、どうも。ほんとにその通りですよね。「過ごしてきた時の証拠」を消すことは、そこにあった文化の息の根を止めることです。下北駅前も新宿ゴールデン街も再開発されようとしています。あの入り組んだ路地が育てた文化に嫉妬している寂しい連中の仕事に思えてなりません。
u-buzoさん。僕も近くに住んでいながら、半年ぐらい気がつきませんでした。お義姉さまの結婚式、素晴らしかったのでは、と想像します。
再開してほしいと心から思います。そしたら、ランチとかで通いたいと思うのに。
再開してほしいと心から思います。そしたら、ランチとかで通いたいと思うのに。
羽澤ガーデン、是非再開してもらいたいですね。私も何度も訪れましたが、すばらしいところでした。この様なすばらしい歴史と文化と森が融合した場所は自治体の力で残すべきですね。開発する人はこのすばらしい建物と森を破壊するのに何の抵抗もないのでしょうか?日本人の美学と良識はどうなったのでしょうか?悲しいですね。
IIKOさん
どうも。羽澤ガーデン、いよいよ工事がはじまりそうです。
自治体の力で残す、ほんとそのとおりですよね。
渋谷区は、もっとしっかりしてもらいたいもんです。
また報告しますが、高層化は免れました。
どうも。羽澤ガーデン、いよいよ工事がはじまりそうです。
自治体の力で残す、ほんとそのとおりですよね。
渋谷区は、もっとしっかりしてもらいたいもんです。
また報告しますが、高層化は免れました。
はじめまして、貴殿の文章に共感し一言書き込みさせていただきます。
私は生まれも育ちも大阪ですが、緑の多い東京が大好きです。町の成り立ちが違い少し前までいい雰囲気が残っていたのですが・・・
この10年ぐらいの東京の開発は先人に対して無礼きわまりない、特に木造建築に対しての心意気は全く無い。虎の門の開発でもそうであったように、大震災や空襲を奇跡のごとく免れた名建築が次々と失われ、古来日本では当たり前であった移築もされず重機の鉄の爪で粉々になる姿は本当に悲しいです。建物に命があるならさぞ無念でしょう。
神戸でも大震災を生き延びた名建築が同じような運命をたどったのでなんとか残ってほしかったのですが・・・ 合掌
私は生まれも育ちも大阪ですが、緑の多い東京が大好きです。町の成り立ちが違い少し前までいい雰囲気が残っていたのですが・・・
この10年ぐらいの東京の開発は先人に対して無礼きわまりない、特に木造建築に対しての心意気は全く無い。虎の門の開発でもそうであったように、大震災や空襲を奇跡のごとく免れた名建築が次々と失われ、古来日本では当たり前であった移築もされず重機の鉄の爪で粉々になる姿は本当に悲しいです。建物に命があるならさぞ無念でしょう。
神戸でも大震災を生き延びた名建築が同じような運命をたどったのでなんとか残ってほしかったのですが・・・ 合掌
まさおさん
はじめまして。この古い文章に目を留めていただいてありがとうございます。おっしゃるとおり、ここ最近の東京の変化は目を覆うばかりでした。311後、心なしか、マンションのちらしも少なめで、一時期のうんざりする「活用」は少なくなったように見受けます。それはそれで不気味です。虎の門とは、マッカーサー道路開発のことでしょうか。まさかと思っていた開発が、いま文字通りブルドーザーのように進んでいますね。必要のない道路です。そういえばこの羽澤ガーデン、建物は取り壊され、いま工事がすこしづつ進んでいます。さて。客観的にみて、放射能が降り注いだこの街の未来には、はっきり暗雲が立ちこめています。見て見ぬふりをしている私たちは、10年後、どんな街の姿を見るのでしょう。
はじめまして。この古い文章に目を留めていただいてありがとうございます。おっしゃるとおり、ここ最近の東京の変化は目を覆うばかりでした。311後、心なしか、マンションのちらしも少なめで、一時期のうんざりする「活用」は少なくなったように見受けます。それはそれで不気味です。虎の門とは、マッカーサー道路開発のことでしょうか。まさかと思っていた開発が、いま文字通りブルドーザーのように進んでいますね。必要のない道路です。そういえばこの羽澤ガーデン、建物は取り壊され、いま工事がすこしづつ進んでいます。さて。客観的にみて、放射能が降り注いだこの街の未来には、はっきり暗雲が立ちこめています。見て見ぬふりをしている私たちは、10年後、どんな街の姿を見るのでしょう。
by nob06
| 2006-11-05 19:20
| 常盤松的日々雑感
|
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